「OurPlace」とは何処なのか?

夜明けの地平線に 日が差すまで Tonight 2人だけでGoing on
監視カメラすり抜けてKiss 壁伝いにOver the night
Like a Bathtubに溢れそうな Your Eyes涙の線を辿る
僕が守る 愛を乗せTrain走り出すOurPlace

V6のメンバーである森田剛三宅健岡田准一の3人からなるComingCentury(カミセン)の曲である「OurPlace」は「ジャスミン/Rainbow」にカップリングとして収録されています。曲としては駆け落ちについて男性目線からポップに書かれています(メロディーもポップでさわやかなかんじ)私はこの曲を「VIBES」DVDで初めて知りました。その映像の中ではとにかくカミセンの3人が可愛くてどうしようもなかったのですが、きちんと歌詞を見て駆け落ちの曲であると知ったときの衝撃は凄まじく、そのギャップに心を奪われてしまいました。そこで、この曲のタイトルであり歌詞の中にも登場する「OurPlace」とはどこなのか、何なのか歌詞から推測していきたいと思いました。

ジャスミン/Rainbow (通常盤)

ジャスミン/Rainbow (通常盤)



まず、駆け落ちをする理由として、曲中の「僕」と「君」の身分(もしくは家柄や社会的立場)に隔たりがあり2人が結ばれることが難しいからであると推測します。なぜなら、「君」は駆け落ちつまり逃避する際の格好としては不便な「パンプス」や「ピンク色のドレス」を着用しており、「監視カメラ」があるような家に住んでいることから、経済的に豊かで社会的に地位の高い家に住んでいるのではないかと想像できます。それに対して「僕」は「Boots&Jeans」を勧めるような表現があり庶民的な生活をしてきたことが伺えるためです。

次に、駆け落ちへの意思ですが、「僕」からは強く感じられるのに対して「君」から強くは感じられません。「僕」は駆け落ちに対して強気であると同時に、もう「戻らない」という覚悟を持っているようです。「僕が守る」という言葉も(追っ手から君を守る)というよりもむしろ(僕と君の愛を邪魔するもの全てから君を守る)という言葉に聞こえ、駆け落ちに強気であることが伺えます。また、単に君の父親が怒っているから「戻れない」のではなく、「忍ぶLoveGame」を「リスキー」、「LoveEscape」を「フリー」とするところに「戻らない」覚悟が感じられます。普通は捕まることも想定して駆け落ちの方がリスキーだと思うはずなのですが、もう戻らない前提であればなるほど納得という感じです。

「君」が駆け落ちにむしろ消極的であるように感じられる表現はいくつかあります。まず冒頭に「フリーズ」しているのは駆け落ちの話を聞いたからでは?とも思えますし、「繋ぐ手」は不安に震えていて、足は「遅れがち」であるという表現があります。さらに「寂しがる君」は母親を呼び、泣き続けているようです。しかし、2番のサビでは「pinkyなlips カーブ描いて GoodSmile」という表現があり、夜明けとともに駆け落ちの決心がつき笑顔になることができたとわかります。


「君」の駆け落ちへの覚悟のように、夜明けとともに変わることがいくつかあります。
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歌詞の通りで分類すると大体このようになります。(「Sunrise」を日の出ではなく朝日にしてるのは私の英語力の無さによるものです……)それぞれが好転、成長のように前向きな変化と捉えられます。「僕」目線であるこの曲では駆け落ちの夜を境にいろいろなことが好転するのも当然なのかもしれませんね。

また、この曲の中には矛盾と取れる表現がいくつかあります。
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まず一つ目は先述した通り、隠れた恋をリスキーとし、駆け落ちをフリーとするこの表現です。通常は、駆け落ちして連れ帰られて会えなくなることをリスキーと捉えることが多いですが、「隠れて恋をし続けても結ばれない」ことをリスクとする捉え方は斬新だなぁと感じました。

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二つ目は、「月」についての表現です。1番では雲で月が隠れて暗闇であると書かれていながら、2番で「君」が母親を呼ぶのは月の下です。例えばこの「月」を「暗闇で行くべき道を照らすもの」であるとするならば、1番では「僕」にはそれが見えていないけれど、2番の「君」の上にはあることから、それは「僕」ひいては「僕の駆け落ちへの意志」の比喩であるとも考えられます。

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三つ目は「君」に関わる表現です。少女である「君」に「僕」が大人になってくれと歌うところに靴と服への言及がありますが、「少女」と「女性」それぞれに紐付いているものが矛盾していると感じました。普通はジーンズやブーツを履いている「少女」が「大人の女性」の象徴であるパンプスやドレスに憧れるのではないでしょうか。前述したとおりお嬢様の「君」は、もしかしたらジーンズやブーツを履いて走り回る「無邪気な少女時代」を送らずに過ごしてきたのかもしれません。そこで「僕」は逃げやすいという意味だけでなく、「大人になる」このタイミングに親からの「自立、独立」という意味で、「君」にジーンズやブーツを履いて欲しいと考えているのではないでしょうか。

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四つ目は「守る」ことに関した表現です。1回目と3回目のサビでは「僕」が、2回目では「君の笑顔」が守っています。ここで安心するのは、君に笑顔があることとお互いが支え合っているということです。これは矛盾とは少し違うかもしれませんが、表現として、庇護対象でありながらその守る人を守っているという状態が複雑かつ世の常である感じがします。

世にある駆け落ち、ひいては心中の物語でその理由としてあげられるのは、大きく分けて①身分等の差が大きいこと、②派閥の対立に巻き込まれていることの2つがあると考えられます。既述の通り「OurPlace」は①による駆け落ちの曲であると想像できますが、②を理由としている物語は数多くあります。その中でも世界的に最も有名なのはシェイクスピアによる「ロミオとジュリエット」です。ロミジュリは宗教派閥の異なる家の若い男女が恋に落ち、結ばれない現状に抗いながらも最終的にはお互いに後を追う形で自殺する話です。もはや駆け落ちというよりも心中の方が適切な表現かもしれません。また、ロミジュリのオマージュとして有名なのは「ウエストサイド物語」です。これはアメリカ情勢を加味してロミジュリを再編した物語で、少年トニーと少女マリアが若者グループの対立に巻き込まれ忍ばざるを得ない恋をする物語です。本家と異なるのは、抗争に巻き込まれてトニーだけが命を落とすことになる点で、マリアはトニーのいない世界で生きていくと決意しています。
特筆すべきは「ウエストサイド物語」のなかで恋に落ちたトニーとマリアの夢のなかを描いたシーンに登場する「Somewhere」という曲についてです。「Somewhere」では
There's a place for us,Somewhere a place for us.(僕たちの居場所がある。僕たちの居場所がどこかにある)
と歌われています。結ばれない恋をしているカップルたちは、いつの時代もどこの国でも2人が結ばれる「居場所」を求めるのですね。結ばれる場所は必ずどこかにあるはずだと歌った2人を死が分かつというのはとても皮肉なもので、「ウエストサイド物語」の場合マリアが死ぬまで2人は結ばれることができないのです。ただ、2人を結ぶ理想郷、理想の将来として「place for us」と「Our Place」はほぼ同義であると言えるでしょう。作詞のKOMUさんが「Somewhere」を意識して作詞されたかは分かりませんが、個人的には関係性があればいいなと思っています。

「OurPlace」の歌詞を読み解こうとして、曲中の2人に親近感が湧いたのか、2人の今後がとても気になります。同じように「居場所」を求めたウエストサイド物語の2人は哀しくも死によって離されてしまいますが、その分「OurPlace」の2人には幸せになって欲しいです。正直今はこれ以上深読みができないですが、またこのハラハラさせられる2人に会いたくて歌詞分析(には及びませんが)して加筆したいなと思います。